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百景図よもやまばなし

第86図 左鐙の香魚(鮎)

86左の鐙(あぶみ)と書いて

さぶみ。高津川の上流

山深い所にある地域の

名である。ここは平家

の落武者伝説がある。

壇ノ浦で敗れた平家の一党が、安徳天皇を率いて、

この中国山地に上ってきたというのだ。ここを通過するとき、キュウリのつるに絡まれて、

左の鐙(馬に乗った時足をのせる器具)を落としてしまった。

ところがこんなところでもたもたしていると、源氏の追っ手に追いつかれてしまう。

後ろ髪引かれる思いで去っていった場所が「左鐙(さぶみ)」というわけである。

なかなか面白い由来である。この他にもこの地には、平家伝説にちなんだ地名がいろいろ残っている。

興味のある方は是非訪れて調べて欲しい場所だ。地元ではこの高津川の支流を吉賀川と呼んでいる。

清流しか住まないヤマメやアマゴ、ゴギなども釣れる所だ。格斎さんが描くような鮎もたくさん捕れる。

しかし今は昔と違い、何十万匹も他所で買った稚魚を放流したもので半天然物である。

だが苔がいいせいか味は抜群である。特に単純明快な塩焼きがこの上ない。

ここでの鮎の食べ方は、頭からかぶりついて、腹わたから骨から、尻尾まで全部食べるのが流儀だ。

頭や骨を残していると「もったいない」と横から手が出てみんな取られてしまう。

盆あたりになると、高津川で捕れた鮎やツガニ(藻屑蟹)が、都会から帰ったみんなの御馳走になる。

清流高津川流域に住む我々にとって、鮎は将に故郷の味なのだ。

百景図のこの景色はいつまでも守っていかねばならない。

因みに鮎を香魚と書いているが、捕れたての鮎はスイカのようなさわやかな香りがする。香魚たる所以だ。

 鮎のいそうな川に近づくとこの匂いがする。多分苔がこの香りの元になっているのであろう。

   なお前に半天然物と書いてしまったが、地元魚協の努力で100パーセント天然物の鮎も多く混じっている。