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百景図よもやまばなし
第100図 着きましたらお茶を点てますで‥
これで最後となった。
玆監候が馬で遠乗りを
するシーンである。
馬が六頭(疋)出てくるが
どの馬が玆監候だろうか?
おそらく五頭目(昔は馬は疋と数えていた)。この馬が一番大きく立派に、しかも真ん中に描かれている。
何かお顔もこちらを向いている。「遅れるなよ」とか声を掛けているのかも知れない。
青い羽織の坊主頭が茶坊主、いわゆるお数寄屋番である。手に持つのは火縄とある。
ヒノキの皮や竹の皮、時にはモグサなどで縄を編んで作ったものだという。
三重県の名張市では今でも作っているという。これが無いと八坂神社の「おけら詣り」が進まない。
一旦火がつけば水につけない限りゆっくり燃え続け、江戸時代は火種に持ち歩き、重宝したという。
芝居小屋などでは小さく切って、ライター代わりに売っていたとも聞く。煙草を吸うのにもってこいだ。
お茶方はこれで火を燃やし、湯を沸かして旨いお茶を点てたのであろう。
さて、この青い羽織の茶坊主こそ、この絵を描いている栗本格斎その人だと思うのだが如何だろうか?
格斎さんがこの絵を描いているのは、齢70ぐらいである。当時としては大変な高齢である。
そして敬愛する玆監候は、すでに25年ぐらい前にお亡くなりになっている。
ということは、この絵の景色と同じように、まさに殿様の後を追いかけている格斎さんなのである。
「殿様、もうちょっとで私も着きますので、着いたら旨いお茶を点てますので‥‥」
そんなつぶやきが聞こえてきそうなのである。
この絵に登場する格斎さんは、丁度二十歳前後である。血気盛んな時である。
皆さんが「まあ、馬の後を追いかけるなんて大変ですねー」
と気の毒がってお話をされるが、案外格斎さんは楽しんでいたのではなかろうか。
殿様と自分の一番楽しかった思い出を、百景図の一番最後に、今の心境と重ね
そっと仲間に入れさせていただいた、そんな思いではなかったろうか。
そうでないと、行事でも何でもない遠乗りを、最後に持って来た思いが伝わってこない。
敬愛する殿様の側に自分の姿を入れ、心から満足して筆を置いたに違いない。
と、いうことで百景図よもやま話もこれで最後の話となり、私もこれにて心置きなく
新年を迎えることができそうです。
長い間私の拙文にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
皆様もよいお年をお迎え下さい。